あれは、3カ月も前のことでしょうか?もっとまえだったかも知れません。馴染みになったショットバーの店長から、店の壁にかけてある電話の話を聞かされたのです。なんでも、店長の話では、本物のビンテージで模造品ではないとのこと。それゆえ、日本では使えない。日本で使えるようにできるというお客さんに預けて、帰ってきたがまだ使えない。とのこと。大塚の話では、「ダイヤルが回らないから、それだけ直せばいいんじゃない?軸の長さがたりなくては表板に干渉してるみたいだからエクステンションつければいいんじゃないの」と軽いタッチだったので、安請け合いしてしまったのです。
しかし、持って帰ってきて、中をあけてビックリ。とても『電話をわかっている人』がしたとは思えない作業内容。いやむしろ『何も知らない人が、かき混ぜた』ようなヒドイ状況だったのです。なにせ、基板は入っているが配線されてない。フックは受話器を取ると切れる逆接。ダイヤルはなぜか縦にスライスされてギヤがブラブラ。この電話が納品された時にうかつに回線に接続しなくてよかった。と胸をなでおろしたのでした。
さて、これを直す、(いやむしろ作る)のには、もう一つ日本の黒電話が必要です。その中身を移植すればよいわけです。ウチの四次元物置を物色したところ、ありました。黒電話。こいつをバラして組み込みプランを練りました。
そして、仕事、ラジコンによる中断を挟んで、ついに完成したのです。
どうです。けっこういい佇まいでしょ。
これが、黒電話としてパルス回線に接続すれば、本物の電話として使えます。
これが中身です。ちょっとごちゃごちゃしてますね。反省してます。
中身はすべて国産黒電話。外に出ているベル、イヤーレシーバー、マイクはオリジナル。ダイヤルリングについては、もしかしたら国産のものかもしれません。この電話自体の素性がはっきりしないのですが、どうも日本のものではなく、英語圏のもの。マイナスネジが多用されている点からみてイギリス製ではないかと思われます。イヤーレシーバーの内部に英字新聞の切れ端がクッションとして入れてありました。
ダイヤルはダイヤル装置ごと換装しました。やはり軸にエクステンションは必要となり、ジュラ削りだしで作りました。
ベル機構も国産黒電話をものを使いましたが、ベル位置が違うため、ハンマーを延長しなければなりませんでした。これも前任者の仕事が、あまりにもヒドイため完全やり直しとなりました。ブツが真鍮であるためハンダ付けです。多分強度は大丈夫でしょう。
国産黒電話のベルはT字型プレートの空いているビス穴位置に左右1対がつきます。
このベル、良い音がします。この電話の最大の魅力といっていいでしょう。単体部品作動テスト(自宅のパルス回線黒電話をバラして、当該部品のみ取り替えてテストする)この音を聞いたとき自分で欲しくなりました。
ははっ、だれが見てもワタクシの作だと分かる部品ですね。
フック機構です。フックだけは、まるっきり構造が違うために流用が効かず、新設計となりました。オリジナルのフックは1回路1接点なんです。日本の電話は2回路2接点のはずですから、この点から言ってもこの電話は日本のものではないと思います。
じつは、マイクロスイッチの入手に難儀しました。構造上、レバーONで回路OFFの接点が必要なのです。とすると、2回路4接点のスイッチが必要になります。当然これは無理ですから、1回路2接点のスイッチを探したんですが、なかなか見つかりませんでした。昔は「ヒロセ」にいけば、よりどりみどりだったのに。
これはかわいそうな基板です。メカニカルな機構を優先的にレイアウトしたら、基板を入れるスペースが無くなりました。面積的には問題なく入るのですが、箱の左右どちらによせてもダイヤル機構の背面に、アルミケースかコイルが干渉して蓋が閉まらなくなります。
悩んだ結果、背の高い部品を左右に分けるべく、基板を真ん中からチョンギリました。
これで、コイル、アルミケースがダイヤル機構を避けます。泣き別れの基板はパターンの代わりに7本のケーブルが、ランド間を結んでいます。
本来は基板を新たにおこすべきでしょうが、そこまでしてられませんでした。
実際には、上のレポート作成後に若干の仕様変更をし、イヤーレシーバーとマイクの中身も国産黒電話のものに換えてあります。オリジナルのものでは、回路との能率のマッチングがいまいちのようで、やや音が小さい。特にマイクの感度が悪いようなので、国産に換えてしまいました。
この写真の部品たちは、オリジナルから取り外されたものです。汚い棒状のものが、オリジナルのフック機構。とても素朴な作りです。
スピーカーユニットは、径の大きいコーンが剥き出しのものがマイク、黒いプラパッケージのものがレシーバーです。
この新聞が、イヤーレシーバーの中に詰められていた英字新聞です。あらためて読んでみると…。「ビル・クリントンが大統領選挙に勝利したら、対中政策が変わるのだろうか?」という記事があり、時代的に古いものではないことが判りました。多分、アメリカから、日本にインポートされる時に業者がクッションとして詰めたものではないか?それゆえ、この新聞がアメリカの新聞であったとしても、電話自体がアメリカの電話であるとは言い切れないという結論に達しました。結局なにも判らないんです。
これが、ワタクシの馴染みの店である「スノーキーバー」。ここの店長に頼まれた仕事だったわけです。
ねっ、この電話似合いそうでしょ。